サンクチュアリ – arrange

小松原 緑

2004年12月6日(月)〜12月25日(土)
12:00〜19:00(日曜月曜休廊・土曜日17:00まで)

夢の生きもの

思春期の頃、身体もだんだん女性らしくなり、周囲からも「女の子」として扱われ始める。そのことに何となく違和感を感じて、落ち着かない思いをする女の子は多い。この連作写真の作者・小松原緑さんもその一人だった。そうした時、彼女は、萩尾望都の描く漫画の「少年愛」の世界に触れ、なんともいえない解放感を味わったのだという。現実の世界での私は、女性=愛される存在であることに常に自分を重ねることを求められるのに、この男の子どうしの世界の中では、「愛される存在」であると共に、「愛する存在」であることもできる。それは、なんという自由だろうか——。それから十数年後、アメリカで写真の勉強をして帰ってきた彼女は、再びその問いと向かいあう。
「なぜ、男どうしなのだろう?」
このファンタジーをリアルな世界に持ち込むことで、表現できることがあるのではないか。そうして生まれたのが、この連作写真である。「『この人が男の子だったら、どんなに素適な存在になるだろう』そう思える女の人が周りに何人もいたんです」
あ、それじゃあこれは、女の子に男装させて撮った写真なのね、そう思ったあなた、もう一度写真をよく見てみてほしい。なにか、奇妙な感覚を覚えないだろうか。……実はこの写真は、顔は女性だが、身体は男性。それを別々に撮って作られているのだ。つまりあなたが見ているのは、現実には存在しない、夢の生きもの。
「表情は、女性でなくては作れない。でも、身体は男性でなくてはならないんです」 この、存在しない生きものたちは、いったい、あなたの中にどんな感覚を引き起こすだろうか?
評論家  藤本由香里
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私は少女の頃から少年になりたいと思っていた。それは私だけでなく、少なからずその当時女の子として窮屈さを感じてた多くの少女が抱く夢でもあった。彼女達の何割かはいつか男の子になるだけではなく、男の子のままで、かつ男の子に愛される自分を夢見るようになった。私のような少女達にとって男の子どうしの恋愛は自然なことであり同時に長い間それは私の、あるいは彼女達の秘め事だった。しかし時がたつにつれ、女性の願望としての男の子どうしの恋愛は一つのジャンルへと成長し現在では巨大なマーケットを確立するにいたっている。膨れ上がったジャンルの中では恋愛の形の差別化、多様化が進み、ありとあらゆる組み合わせでの愛の形が供給されている。
 今回発表するサンクチュアリ〜arrange〜は、連作の第二部である。この連作は架 空の街の学園を舞台としている。第一部は、主要キャラクターの紹介部分であり、様々な美形男性キャラクターが登場し、第二部でその男性キャラクター同士の関係性を発展させている。
 この作品では、「女の子が妄想する男の子同士のカップル」を創造する。様々なカップルの組み合わせが可能であり、自分を投影するキャラクターも変化しうる。男の子同士という同質の者同士の関係にすることで、そのどちらになることもできる。女の子の多様化するライフスタイルと進化する欲望に合わせて男の子同士の恋愛ファンタジーは変幻自在であり、それによって愛する者になりたいでも愛されたいという女の子の両義的な欲望が成就される。たとえそれがファンタジーだとしても・・・
小松原緑
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写真を使って、現代の日本の様々な肖像を独自の方法で描いてきた小松原緑。
前回彼女が焦点をあてたのは「やおい/女の子が妄想する男の子どうしのカップル」 という現代日本の女性の一面でした。
既にマンガやゲームの中で多くの女の子を魅了して来たこのテーマは小松原にとっても、他者ではない、自分の一部として切実なものでした。それが故に深い考察が重ねられ、前回の登場人物が作品の中で関係性を展開、という形でその姿はより鮮明になっています。

本当に簡単には見破れない、様々な貌を持つ現代日本人女性。この複雑な世界観は日 本の女性が置かれている立場が故に生まれたものです。ゆえにとても社会的なものと も言えます。そして又デジタルの技術を駆使し、女性の顔に男性の体という、あり得 ない実像を得た、この完成度の高さはとても美術的なものともいえます。是非、この 世界を見て頂きたいと思います。

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